ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「――で、どうだ?声」



声を出してみる。

言葉は出ない。


――でも。


微かな、何かを感じた。


"手ごたえあったかも!?"


携帯に打ち込んで陽斗に見せると、


「よかった。時間の問題だな、後は」


本当に嬉しそうに笑いながら、あたしの髪を手櫛で梳いてくれた。



白服を脱げば――


確かに洋服は濡れていない。


陽斗はまだゼリー状の名残があるその服を着てしまった。


「お前さ、香水でもつけてたっけ?」


突然陽斗が聞いた。


あたしは首を横に振る。



「だよな。だとしたら……


お前の匂いか。随分甘えな」



どうしたんだろう、陽斗くんが色ぼけしてる。

ピンクに染められて、何だか顔が弛んでいる。

やはりあの水槽はヤバイものだったんじゃないだろうか。


陽斗は濡れたタオルを差し出した。


「水槽潜った時、濡らした。

効果あるのなら、首に巻いておけ」


あたしが溺れている最中に、なんと冷静なこと。


文句の1つでも言いたい心地だったけれど、あたしはそれをありがたく頂戴し、首に巻くことにした。


タオルに、微かなカビが見えたような気がしたけれど……見てなかったことにしておこう。 


< 567 / 974 >

この作品をシェア

pagetop