ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


僕は櫂には敵わない。



だから今まで諦めてきた。


――芹霞も。



幾らこの手に掻き抱きたい邪念に囚われても、想いをぶつけたくても、それでも耐えて忍んで来た。



櫂の存在故に――。




僕は判っている。


8年前、櫂が何故紫堂を必要としたのか。



――玲、お前には話しておく。



櫂が抱えている闇を、僕は直接教えて貰ったから。


だから僕も、櫂と共に護らねばならなかった。


――芹霞を。



櫂を見ていれば、どれだけ芹霞を求めているかよく判る。



だから僕は――

自分の気持ちに必死に蓋をしていた。



櫂だから――

僕は必死に目を逸らしていた。



そうすべきだと、僕は何年も…自分に言い聞かせてきたんだ。

 

だけど――

あの男に、芹霞を渡すつもりはない。


あの男が相手なら、僕は遠慮はしない。



我慢し続けてきた僕の人生の中で、出遭った瞬間で、僕の仮面の笑みを見抜いた女性(ひと)。


僕の心の闇を見抜いた女性。



まさか、目薬を注されるとは思っていなかったけれど。



母の今際の言葉に縛られて、いつか気狂う"僕"を恐れていた僕に…

稲妻のような衝撃を与えた女性。



"我慢"の解放を望んだ芹霞だから、



ならば僕は――

芹霞を我慢したくない。



櫂ではない男に奪われる為に、

僕は今まで我慢してきたわけじゃない。



我慢をやめた僕が、例え気狂った姿を晒しても…

芹霞を求める姿なら僕は構わない。



僕は――

我慢しない。



紫堂がどうとか、元老院がどうとか。


もうそんな拘りも一切なく。



「……櫂」



それだけで振り返った櫂は、

一瞬だけ目を瞑って天井を見上げると、



「玲。俺ももう……


――無理だ」



その声を合図に、橙色が横を走った。



真っ直ぐに突き進むは、亜利栖の元に。





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