ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
びりびりと空気が震えた。
玲くんが。
あの穏やかな玲くんが。
Sを遙かに超えて、"怒って"いる?
攻撃的な顔。
それは――…
煌が敵を目の前にしたような凄みがあって。
思わず、あたしは息を飲んだ。
「レイク~ン。びびらせてどうすんのさ~」
あはははは~。
嘘臭い笑い声が響いた。
気づけば、胡散臭いほど爽やかな仮面をつけた蒼生が、腕を組んで興味深げにこちらを見ていた。
そして愚かなあたしは、現実に気づく。
どうして蒼生がここにいるの?
どうして玲くんがここにいるの?
此処は――何処!?
「ん? ここは市ヶ谷駐屯地、医務室。芹霞チャ~ン、君が中々目覚めてくれないものだから、白き稲妻が憤慨してね。
陽チャンみたいに勝手に契約破棄しようとするものだから、俺…凄く困っちゃってさ~」
馬鹿にしたような物言い。
本当に困っているようには思えなかった。
"契約破棄"
「玲くん。契約って何?」
多分、あたしは…
凄く険しい顔をしていると思う。
まさか。
まさか玲くんが。
「櫂を裏切るなんてこと、
――…しないよね!!?」
玲くんを真っ正面から見据える。
先刻は顔をそむけた端麗な顔を、今度は真っ直ぐに。
「櫂が絡むと…
いつもそうだね……」
小さすぎる呟きは、あたしには理解出来なくて。
聞き返そうとした時、端麗な顔に微かな笑みが戻った。
「………。
僕が櫂を裏切る訳…
……ないだろう?」
その掠れた声に、真情を窺うとすれば…どんなものか。
一瞬の躊躇いの意味を、
あたしは考えていなかった。