ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「あはははは~。よく言う~。じゃあ、気高き獅子を追い詰めるプログラムの封鎖パスワード、解除して貰おうか。
その結構な忠義心見せてよ?」
「玲くん…やらないよね」
あたしは不安になって玲くんを見上げた。
玲くんの眉間には、くっきりと深い皺。
煩悶の…刻印。
「ね、ねえ……?」
玲くんの腕を触ると、玲くんはびくっとして顔を上げ、そしてあたしを見た。
「芹霞」
それは決意めいた顔で。
「僕は…僕の意思で行くから」
あたしにいつも向けていた、あの…安らぐような穏やかさはない。
異論を唱えることさえ許さないような…、言うなれば"紫堂玲"としての威圧感がそこにはあった。
他人の影にではなく、前に進もうとする力強さ。
その眩しさにあたしは思わず目を細め、手を離した。
それは今まで見たこともない男らしい玲くんで。
格好いい。
純粋にあたしはそう思った。
こんな短時間で変わる彼に、何があったのだろう。
「僕が信じられない?」
玲くんは、少し困ったように笑った。
「ううん。玲くんを信じてる」
ふわり、と玲くんは微笑した。
どこまでも甘く、
どこまでも美しい。
魅惑的なその微笑は、息苦しく感じる程に。
いつも櫂の横にいればあまり意識することはないけれど、玲くんだって櫂に負けず劣らずの凄い美貌だ。
それをじっくりと体感したのは初めてかも知れない。
「芹霞はここに居て」
玲くんはそう言ったけれど、
「あたしも一緒に行く」
あたしは玲くんと共に立ち上がった。
玲くんは信じている。
だけど。
「一緒に居る」
玲くんの決意の先に――
不安を感じたのも事実。
玲くんは櫂を裏切らない。
それなのに感じるこの不安。
あたしは玲くんと共に居ないといけない。
そう…思ったんだ。