ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「8年前。アオを問い質して制裁者(アリス)の実態を聞いた。
アリス……全くふざけた呼称だな。元老院が"永遠なる乙女"に捧げた貢ぎ物だ。
藤姫に魅縛された元老院は…藤姫を辱めながらも神聖視し、その永遠の処女性を求め、藤姫の身体に緋影の処女を宛がった。
生来より藤姫は、人を惑わせる術に長けていたが、子供の身体と大人の精神、その肉体のアンバランスさに更に幻惑されたようだ。
今回緊急手段として"身体"に選ばれた篠山亜利栖は、非処女だったが、処女であったら、今頃お前達いえど…意識せずとも殺しあっていただろう。
真性の邪眼とは、藤姫のことを言う」
そう自嘲気に笑うと、笑みを消した。
「陽斗は藤姫が生んだ子供だ。ただ肉体を変え続ける彼女にとって、その血の繋がりは意味を持たない。
金は…藤姫という存在に対する耐久性があると同時に、何よりも藤姫の力を受容しやすい、両刃の剣。
だからこそ金の身体は、藤姫の意思1つで動かせられる制裁者(アリス)の原型となりえた。
藤姫は退屈の解消を自らの残虐性に託し、同族の身体を……死に耐性があるその命を玩(もてあそ)び過ぎた。よって緋影は元老院の手によって藤姫の玩具とされ、制裁者(アリス)が生み出された。
だが緋影が人間である限り、何れは死を迎える。
そこで元老院は、古の魔術……死霊秘法(ネクロミコン)に目をつけた。幸いにも紫堂という、異能力者達が傍に居る。
原本である"黒の書"の禁忌の威力は彼らによって引き出され、制裁者(アリス)にも応用出来るよう、更に紫堂の研究所の精鋭達に黒の断章として集大成された。
その試作品が――」
「生ける屍、ですか」
櫂が呟き、緋狭姉は頷いた。