ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「ああ。坊も見たことがあったな。あれはまだ開発途中だったものだ。あれを応用し、新たな制裁者(アリス)を作り出そうとしていた。
死ぬことのない、藤姫の残虐性を引き継いだ殺戮集団。既に死んでいるのだから、ある意味無敵だ。
だから私は、研究が完成する前に研究所を潰し、黒の断章……黒の書そのものを燃やし尽くした」
緋狭姉は俺と目を合わせた。
「私は藤姫に意見した。まだ生者である内に制裁者(アリス)を解体し、彼らを解放せよと。
しかしそれが藤姫の機嫌を損ね、怒った藤姫は、私に制裁者(アリス)を差し向けた。だが私が、制裁者(アリス)の邪眼如きにやられるはずなかろう」
俺は苦笑した。
当時のことは朧気な記憶しかないが、俺も本当にぼこぼこにされた。
命あったのが不思議なくらいで。
「だがな、藤姫の狙いはそこではなかった。
痛めつけようとしたのは、私自身ではなく――私の家族だ」
緋狭姉は一瞬だけ唇を噛み締め、櫂を見る。
櫂は、遠い目をして呟いた。
「そう、あの時――。
緋狭さんの両親を殺し、
そして…
芹霞まで手にかけた…」
「は?」
"芹霞まで"って何だ?
「私が駆けつけた時、
私の家族は絶命していた」
どくん。
「はあ!? 絶命って何だよ!?
確か親は交通事故死で!!
芹霞は生きているじゃねえか!!」
どくん、どくん。
不吉な予感に、心臓が煩く鳴った。
警鐘のように。