ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
――このゲーム、同人のくせに、やたら作りこまれてるでしょう? 協賛スポンサーがいるらしいの。で、攻略キャラが呟いたものっていうのは、現実に売っている…流行ものなの。つまり協賛スポンサーの商品。
――広告費で儲けて開発にまわしているのね、この"アリス委員会"。
――で、それを買うと、7桁の数字が記載されたカードを店員から貰えるんだけれど、その数字をゲームの特定の入力欄に入れたらキャラ好感度がUPするのよ。それによって、後半のバトル戦が有利になるらしいわ、由香りん情報では。
――逆に叶えないとかなり好感度下がって、バトル不利。それに話も聞いてくれなくなっちゃうらしい。だから…"アメ"が必要なの。アメ、買いに行くの付き合って!!
おねだりをする櫂か…。
"芹霞ちゃん、アメ頂戴?"
思い浮かべるのは昔の櫂の姿。
両手の平をくっつけながら少し丸め、小首を傾げてはにかんだように笑う。
今だったら何とする?
"アメ寄越せ"
鋭い目を向けられて、有無を言わせず…言うことを聞かされそうだ。
これ…おねだり、になるんだろうか。
弥生の相手をしている櫂のおねだりは、池袋のサンシャイン通りに面した香水店にある、ある香水。
狭い店舗にはあたし達以外の女子高生がたくさん居た。
そのうちの大半は、同じ香水瓶を見つめている。
だけど、弥生のような"おねだり"というより…純粋に"お洒落アイテム"として楽しんでいるようにも思う。
買い物が終わったあたし達は、そのまま…人の流れに乗るようにして、サンシャインビルに向う。
清清しい初夏の匂いと、雑踏の匂い。
東京特有の…匂いが、甘ったるい匂いで麻痺した鼻を、いつもの状態に戻していく。
「この香水ね、雑誌とかでも有名なんだ。流行なのよ、この香水…。この店限定でね。欲しかったから丁度いいわ」
弥生は買ったばかりのスプレー式の香水瓶を取り出し、首筋につけた。
ふわり、と甘い薔薇の香りがする。
何種もの香りが入り交ざる香水店では、嗅ぎ得なかった香り。
「……ん?」
どこかで嗅いだような、不思議と懐かしい香りだった。