ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
くんくんと弥生の首筋に鼻を寄せて匂いを嗅ぐと、弥生は気味悪がった。
「犬? 失礼な、煌でもあるまいし。何だろう、どっかで嗅いだことあるんだよね」
「流行ってるから誰か彼かつけているでしょう。それとね、この香水の凄い処は、何と"飲める"のよ。水で希釈して、なんだけれど」
「の、飲めるの?身体に悪くない?」
「薔薇には美容エキスが豊富にあって、肌につけるとすごくしっとりするんだけれど、口に含むとね、吐息が薔薇の匂いになるんだって。サプリにもあったじゃない? この香水はつけてよし、飲んでよし、入浴剤にもよしの優れもの。身体に悪い成分は入ってないのよ……っと。さあ、あの信号渡って向こうがサンシャインよ。今日は私のおごりよ。紫堂くん怒らせちゃったお詫び」
「きゃあ、弥生ちゃん大好き」
そう弥生に飛びついた時だった。
――どくん。
突如、心臓が大きく跳ねた。
危 険。
全身が突然警告を発した。
背後から悲鳴。
「芹霞、何だろう……」
弥生があたしにしがみついてきた。
信号待ちしている多くの人々も、ざわつきながら、香水店があった…一番の活気がある大通りを振り返っている。
やばい、気がした。
昨夜のことが脳裏に浮かぶ。
悲鳴を上げ、左右に細々に散る人並み。
生臭い鉄の匂い。
そして背後から絶叫。
「ぎゃああああああ」
それをかき消すような…
獣のような咆哮。
「ぐああああああ」
制服を着た少女が…
スーツを着た女の喉笛に…
食らいついていたんだ。