ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
ひんやりとする冷気と黴の臭いが流れてくる。
暗い。
辺り一面闇だ。
ゆらゆらと小さく揺れる蝋燭の光に目が慣れてくれば、俺達は意外に広い空間に足を踏み入れていたことを知る。
「何だ、ここ……」
舗装がされていない、天然の洞穴のような広い空間。
踏み込んだ足に伝わる地面の感触は――土だ。
そしてその土壌に、直径50cm程の灰色の石が等間隔に複数置かれている。
表面に12星座の模様が刻み込まれた、自己主張の激しい何とも胡散臭い石群。
石は全部で11個。
十字の位置にある中央の4つの石を基軸に、その外側には7つの石が円状に取り囲んでいる。
そしてそれを覆うように、地面大きく大胆に刻み込まれた円と四角の図形。
その図形の中に所々に取り込まれている、怪しげな記号。
これはまるで――
「――魔方陣。黒の書曰く"形なきもの"を召喚するためのものだ。
恐らく――」
櫂が堅い声をして言った。
「形なきもの?」
「ああ。人類の出現よりも早く存在したと言われる暗黒界の忌まわしきもの。
それを黒の書に書かれた方法で召喚し、その邪悪な力を使えれば死霊さえも生き返らせることが出来るという。
8年前に緋狭さんが破壊した"生ける屍"は、紫堂の召喚力や捧げ物が不十分だったんだろう。
ということは……地上の血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)は、大勢の人間がこの召喚儀式の完全なる供儀になることによって、俺への呪詛の役目を強められたと同時に、急激にその数を増やせられたということか」
くつくつくつ、櫂は喉元で笑い出した。