ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


芹霞は俺に気づくとほっとしたように……泣き出しそうに微笑み、その顔を横に居る櫂に向け――そして妙な緊張感を走らせると、ひきつったように顔を強ばらせた。


それでもその黒い瞳は櫂を捕え続け、櫂もその目から視線を外さない。


癪ながら。

見つめ合うのは日常的な光景だけど、今度ばかりは空気が違う。


仲違いしているせいもあるだろうが、芹霞の表情を見るからにはそればかりじゃねえ。



芹霞は――知ったんだ。



だから櫂に距離を取ったのか?

そして櫂はその距離を縮めようとしない。



その時――


「ぼうっとすんなよ、芹霞ちゃんッ!!!」


白い服の金髪男が飛びつくようにして、真上から芹霞に覆い被さると同時に、凄まじい衝撃波が床を裂いた。



「飛んで火にいる夏の虫って奴だね、気高き獅子。大人しくアカの元にいればよかったものを、あはははははは!!」


元々地震で基盤が脆くなりつつあった建物は、突如加えられた威力に耐えきれずついにはガラガラと崩れ、そして俺達は瓦礫諸共落下した。


落下先は、瓦礫を山に積み上げる地上。


空は依然まだ赤く。


そして血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)が近寄ってくる気配がする。



芹霞と陽斗は遠くに落下し、俺、玲、櫂、氷皇は此処にいるのに、どんなに探しても藤姫は居ない。



「うふふふふふ」


俺を苛んだ気味悪い声に顔を上げれば、あの女はまだ形骸が残る半壊状態の建物の上階から俺達を見下ろしていて。


その手が掴む骸のような蹲った人影は――遠坂由香か?


「……くそッ!!」


悔しそうな声に目を向ければ玲で。


「残念だったね、レイクン。由香チャンが君に教えた何かを、自己責任で補正して貰うよ? 間に合わねば間に合わないで、出来なきゃ出来ないでいい。時間制限で君がそのまま死ぬだけだ。あはははは」


どうする?


遠坂を攫いににあそこにいくか?


今であるなら。


攫ったら、玲が呪詛にやられる。

攫わなかったら、櫂が呪詛やられる。



何だよ、この選択!!


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