ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
反り返ったそれの口に、手に掴んだ路傍の石を無理やり捻じ込み、その隙に弥生の元に駆け寄って弥生の手をひっぱった。
「弥生、あれにッッ!!!」
道路の脇に、休憩中のタクシーが目に入る。
音楽が外に洩れている。
運転手は大衆誌で顔を覆い、寝ているようだ。
「弥生、動けッッ!!!」
あたしは弥生を一喝して。
力一杯弥生を引きずって――
開けたタクシーのドアの向こうに彼女放り込み、足でドアを閉める。
「ぐあああああ!!!」
間髪いれずに、ソレがあたしの腕を掠めた。
真紅色が、まるで薔薇の花弁のように散る。
あたしはドアを開けさせまいと、ドアを背にして、思い切りソレの腹を蹴り付けた。
ソレは咆哮した。
悪魔の雄叫びというのはこういうものを言うのだろうか。
言葉で表現出来るものではない。
ただ…悍(おぞま)しいだけ。
運転手が飛び起きたようだ。
エンジンのかかる音がする。
あたしの背後で、ドンドンとドアの鉄板を叩く音。
『芹霞、芹霞ッッ!!!』
弥生の…あたしの名を呼ぶ泣き声。
ガッシャアアンッ
ソレの手がドアの窓を壊す。
あたしは――
反射的にソレの腕に噛み付いた。
視界に入る…赤い薔薇。
まただ。
昨日と同じ――
血色の薔薇の痣。
それが腕にある。