ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「緋狭さん。
呪詛の変更がなされたのでしょう?
僕の心臓にかかる重圧が薄らいでいます。
だから――
空の結界を消して下さい」
そう言うと玲様は、顔から笑みを消した。
「紅皇。
僕達を護ってくれたその力で、
今度は櫂を制して下さい。
このままだと、あいつは――」
その時だ。
『自ら戻ってきたか、無力で愚かなる小娘。紫堂櫂の力弱まった今こそ、お前の中の血染め石を抉り取り、黒の書の力でもって東京を壊して見せようぞッ!! ああ、なんて美しい、何て愉しいッ!! もっと、もっとッ!! 血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)を糧として、暗黒の力を強めてくれようッ!!! そしてその大いなる力で、血染め石を操るのだッ!!!』
玲様は苦しそうに目を伏せ、
そして目を開けると儚げに微笑んだ。
「あいつはきっと…
耐えきれず――暴走する。
僕は――僕達は…
芹霞が還る場所を潰しに行きます。
芹霞を…還らせない」
その決意めいた宣言に、口を挟む者はなく。
否、それは痛いほどよく判るものだったから。
やがて、玲様の言葉に誘われるようにして、自然発生とは到底思えない暴風が、地殻を削り取るかと思われるくらい、凄まじい威力で荒れ狂った。