ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
藍より深い色の髪。
髪よりも深い青の瞳。
彼はにこり、と笑った。
一瞬――
あたしは悪寒を覚えた。
来襲していた怪物ではなく、
視界を突如割った…
青く整いすぎる顔を持つ、
人間の姿態をした、この男に。
男が、がくんと揺れた。
彼の足に"踏み潰された"…ソレが動いたんだ。
「おお!? 元気いいなあ。
あはははは~」
緊迫したこの場に、凡(およ)そ不釣合いな、爽やかな笑い声が響いた。
「早く、逃げて!」
あたしが声を上げると同時に、ソレが身を捩って体勢を立て直し、男の喉元目掛けて飛びかかろうとした……時。
「…… ん? 何か言った?」
男の足元で…
再び、ソレが"沈んだ"地面に、波紋状に…皹が入る。
少しなどという半端なレベルではない。
まるで隕石が落ちたような派手な瓦解。
何!!!?
何が起ってるの!!?
唖然とした。
男は両手に大きな紙袋を抱えている。
だから、やはり足で、抑えつけているのだというのは判る。
だけど、ありえない…この強さ。
「うーん、まだ動くか。
"やんちゃ"には躾が必要だね」
爽やかだ。
この男、無駄に爽やか過ぎる。
笑みを湛えたまま、両手に荷物を抱えたまま…踏み潰しているソレが動く度に、容赦なく足に力を込めて。
「あはははは~」
地面が更に陥没し地割れが拡がって行く…この異常な光景の中、まるで似つかわしくない…清清しいまでの爽やかさ。
驚きもせず、
慌てもせず。
まるで第三者の…一介の傍観者のように。
そして――
ソレは、男の足の下で消えたんだ。
昨夜の少女のように、跡形もなく。