ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
何から何まで青色に覆われた、
長身の男だった。
「何か踏み潰しちゃったかな?
ま、いっか~。あはははは~」
青く長い外套(マント)を纏っている。
季節はもう暑くなっているというのに…外套姿は奇抜。
暑苦しく思わないのは――
その色のせいかもしれない。
水の青。
氷の青。
青色は、冷たく――
――…冷酷さをも感じさせる。
にこやかな笑みの中の、極度の冷たさ。
そこに垣間見えるのは、
確かに…
底冷えしそうな狂気だったから。
あたしは思わず、ぶるりと身震いをした。
「もう大丈夫だよ」
あたしは思わず座り込んでいたらしい。
人気のない周囲から、鉄の匂いがする。
遠く離れた場所が、喧騒に満ちている。
どうなっているかなんて、見たくもない。
男は山の荷物を片手に持ち替えて、あたしに手を差し伸べた。
本当に爽やかに整った顔立ちをしていた。
それなのに――…
「あはははは~」
何で胡散臭く思うんだろう、この男。
爽やかさを掻き消す以上の…怪しい笑いのせい?
「あはははは~。立てなくなっちゃった?」
「……いいえ、その手をとっていいか、考えあぐねているの」
すると男は、あはははとまた笑った。
「俺はアレから君を助けた、良い人だよ?」
「……自分を良い人だと言う人に限って、本当に良い奴はいないわ。大概が曲者(くせもの)よ」
「うーん、どうしたら信用して貰えるだろう。そうだ、お菓子でも食べる?」
餌付けか!!!
唐突に男が紙袋から取り出したのは、クッキーだった。
しかもそのクッキーは、
「………」
猫耳とフリルがついた…
給仕(メイド)服の美少女が型取られたクッキー。
どう反応していいか判らない。
というか、まともな反応をしたくない。
してはいけないような気がする。