ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「あ、ごめん、間違えた。女の子はこっち」
「………」
次に手渡されたのは、正装姿の男性の絵がついたクッキー。
何が…"間違えた"んだろう。
あたしは無言でクッキーを見つめた。
「それ執事クッキー。ヒツジじゃないよ、シツジ。メエメエじゃないからね、あははははは~」
聞こえとるわ!!
あたしはまだ耳は遠くない!!
「どうぞ? さっき乙女ロードで買ってきたものだから、新鮮で美味しいよ?」
ぼりぼりと、男は嬉しそうに食べている。
「でも俺としては、食うんなら給仕(メイド)さんがいいなあ」
クッキーの話だよね?
年は玲くんより上だろう。
20代後半?
そんな大人が……
何故に給仕(メイド)、何故に執事?
いかに流行に疎いあたしとはいえ、それらの愛好者がどんな人達か、そして乙女ロードと呼ばれる処がどんなものなのかは判る。
……まあ、ほとんどは弥生から教えて貰った知識だけど。
そんなもの、あたしは――…
ぐぅ~。
「………」
「………」
ぎゅるる、ぐぅ~。
………。
何でこんな時、特大の腹の虫…?
「ままま、どぞどぞ。お1つ」
「………」
ぎゅるる、ぐ・ぐ・ぐぅ~。
最早…人間の音になっていない。
「………」
負けた。
恥ずかしい以前に、矜持がどうの以前に…人間の本能に負けてしまった。
お腹が減ってたまらない。
あたし頑張ったんだし!!!
虚しい…言い訳だけど…。