ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
ぼりぼりぼり……。
「どう、どう? 中々イケるでしょ?」
「………」
返事の代わりに――
男の持つ袋から、数枚引き抜いた。
ぼりぼりぼり……。
「ね、おいしいでしょ、おいしいよね?」
「………」
ぼりぼりぼり……。
「どうなのさ~」
袋からまた数枚引き抜いた。
「ねえねえ!!」
抜くのも面倒だから、袋ごと取り上げた。
ぼりぼりぼり……。
「あ~もう空!!? 仕方ないなあ、はい。新しいの」
紙袋から出て来る、新しい執事クッキー。
「その紙袋。そっち関係の……全部お菓子?」
「うん。そっち関係の、全部俺のおやつ」
にこっとまた爽やかに笑う男。
あたしはとうとう、吹き出してしまった。
何だ、こいつは!!!
「胡散臭さは残るけど、とりあえず助けてくれてありがとう。ええと、あたしは……」
「知っているよ、
神崎芹霞チャンだろ」
その手を取り、立ち上がりながら…あたしはびくっと身体を震わせた。
「え、何であたしの名前……」
「俺の周囲は、とかく君にご執心だからね。
俺はさしずめ、君の傍に在る、紫堂の…オレンジのワンワンって処かな」
煌のこと?
紫堂関係者?
男は、血が滲むあたしの腕を見ると僅かに片眉を動かす。
そしてがさごそと紙袋から、『萌え水』と描かれた可愛い女の子のイラスト付のペットボトルを取り出すと、口をあけ、透明な水をあたしの腕に振り掛けた。
そして外套のポケットから、やはり青いハンカチを取り出すと、傷の上方にきつく結ぶ。
手当てをしてくれたらしい。