ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「……芹霞、帰ろうか」
漆黒色の髪をした少年が、少女の腰に手を回す。
途端に少年に向けられる冷たい視線。
少年は溜息を1つこぼしてぼやいた。
「お前達こそ、これ以上のことしたんだろうが」
そして少年はいつものように不敵に笑い、
「なあ……芹霞」
少女の顎を手で掴むと、その顔を上に押し上げ、
「早く目覚めろよ?」
その唇に、自分の唇を押し付けた。
吃驚したのは少女だけではない。
その場全員、顔色を変えて怒鳴ったり言葉を失くしたり。
美貌の幼馴染の顔を見ながら、少女は思っていた。
どくん。
何だろう、この疼きと切なさは。
陽斗の心臓が、何かを伝えているの?
眩しい眩しい大好きな幼馴染。
益々もって、その存在は大きくなっている。
目覚めて改めて気づいたことがある。
「……あたし、櫂がやっぱり好き」
震えるようなその声に…
更に場は凍り付く。
漆黒髪の少年だけが、憂いの含んだ愛情あふれる眼差しで、愛しい少女を見つめている。
「本当に大好きなの……。
ねえ、あたし達……」
一見、平然としているように思える漆黒髪の少年の鼓動は早すぎて。
愛しさと期待に胸が押し潰されそうで。
8年をかけてようやく――
待ち望んでいたことが到来したのかと、身体が震えてくる。