ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
少女を抱く少年の面差しは、
8年前の姿はまるでなく。
至近距離にあるのが、誰もが求める美貌の少年だと思えば、今更のように顔が熱くなってくる。
ばくばくと、心臓が口から出てきそうで。
気を静めようとすれば、間近で大きく香るシトラスの香水の匂いに煽られ、逆に動悸が激しくなり息苦しくて堪らない。
形の見えない"何か"が膨れあがる。
その初めての落ち着かぬ焦慮感に惑った少女は叫んだ。
「玲くん~ッ!! あたしの心臓が何かおかしいよ~ッ!!? もう1回、よく検査して~ッ!!!」
担当医に訴えたが、担当医は不気味な無言を貫いた。
橙色の髪をした少年は、ショックに顔面蒼白だ。
「何かわかんないけど、櫂離れて~~ッ!!!」
しかし漆黒髪の少年はその力を益々込めて、強く少女を抱きしめた。
もっと自分を感じろといわんばかりに強く。
少年は――
ふわりと極上の笑みで笑っていた。
「なあ……芹霞」
少年は、少女の耳元に囁きかける。
「グリム童話の『いばら姫』ってあったろ?」
低すぎもしない、玲瓏で甘い声。
「王子様のキスで目覚めたいばら姫が、"懐かしそうに"王子様を見あげて、"ああ、貴方でしたの?"って言った最後の場面…
お前、不思議がってただろう?」
そういえば…
そんなことを思ったような気もする。
遙か…昔の話。
「つまり――」
少年は少女を見た。
「お姫様を目覚めさせた王子様は…
お姫様が眠る前からお姫様の傍に居た、よく見知った男だったんだよ。
ずっとずっと…目覚めるのを、待ち続けていたんだ」
――約束します、父上。
「俺を縛るいばらの効力は弱まった。
お前が退院したら、俺は動くから。
早く……目覚めろよ?」
お前が闇から目覚めてくれるのなら。
俺はその代償に――
どんないばらに苦しんでもいいから。
「俺はいつでも此処に――
誰よりも近く…お前の傍にいる」
そう、笑った。
いばら姫に真紅の薔薇を
Fin.