ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
そして気づけば――
何だ、此処は。
何でこんな場所にいる、あたし。
「……消毒や包帯手当はいいとして、何で着替えさせられているの?」
「んー? だって君、血だらけの服だし。俺のダブダブの外套纏ったままの、卑猥な状況でもそそられるけど……え? 俺の方が卑猥? やだなあ、あはははは~」
ここは洋服店。
異色の洋服店。
「……言い直す。どうしてあたし、こんな猫耳給仕(メイド)の格好させられているの?」
「だって、可愛いし。やっぱり似合うし。俺だってちゃんと人を選んでるよ」
くらり、とした。
この胡散臭い爽やかさに絆されたあたしの負けだ。
この男は正真正銘の胡散臭い男だった。
『コスプレ専門店』と書かれた店内、しかも自由空間(フリースペース)という六畳くらいの部屋に2人きり。
着替えさせたのは、勿論、今ここに居ない店員だ。
青い男などには触れさせるものか。
あたしはあんな青色になりたくない。
あたしの横にはこの店常備の救急箱。
そしてあたしの尻にはふわふわ尻尾まである。
「あたし、それ処じゃないのよ。櫂と待ち合わせしてるのよ、サンシャインに」
深い藍色の瞳に、微かに何かが横切る。
「ふうん。君を助けた俺にはご褒美なしで、紫堂櫂の元にすぐ行くのか。
酷いなあ君は」
ぞくり、とした。
何だろう、この危惧感。
「折角君は――
俺と同類だと思ってたのに」
軽い言葉とは裏腹に、
強い言葉で呪縛されたかのように動けない。
まるで…言霊(コトダマ)の力。
「勿論、俺の趣味じゃなく……」
男は爽やかに笑いながら、
人差し指をあたしの首元に当てた。
まるで刃物をあてられているような、剣呑な感触。
人差し指は徐々に下がり…
あたしの胸の位置で止まる。
「……君は此処に――
何を入れてるの?」
そんなことを訊いてきたんだ。