ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~




そして気づけば――


何だ、此処は。

何でこんな場所にいる、あたし。


「……消毒や包帯手当はいいとして、何で着替えさせられているの?」

「んー? だって君、血だらけの服だし。俺のダブダブの外套纏ったままの、卑猥な状況でもそそられるけど……え? 俺の方が卑猥? やだなあ、あはははは~」


ここは洋服店。

異色の洋服店。


「……言い直す。どうしてあたし、こんな猫耳給仕(メイド)の格好させられているの?」

「だって、可愛いし。やっぱり似合うし。俺だってちゃんと人を選んでるよ」


くらり、とした。


この胡散臭い爽やかさに絆されたあたしの負けだ。

この男は正真正銘の胡散臭い男だった。


『コスプレ専門店』と書かれた店内、しかも自由空間(フリースペース)という六畳くらいの部屋に2人きり。


着替えさせたのは、勿論、今ここに居ない店員だ。


青い男などには触れさせるものか。

あたしはあんな青色になりたくない。


あたしの横にはこの店常備の救急箱。

そしてあたしの尻にはふわふわ尻尾まである。


「あたし、それ処じゃないのよ。櫂と待ち合わせしてるのよ、サンシャインに」


深い藍色の瞳に、微かに何かが横切る。


「ふうん。君を助けた俺にはご褒美なしで、紫堂櫂の元にすぐ行くのか。

酷いなあ君は」



ぞくり、とした。

何だろう、この危惧感。



「折角君は――

俺と同類だと思ってたのに」

 

軽い言葉とは裏腹に、

強い言葉で呪縛されたかのように動けない。


まるで…言霊(コトダマ)の力。


「勿論、俺の趣味じゃなく……」


男は爽やかに笑いながら、

人差し指をあたしの首元に当てた。


まるで刃物をあてられているような、剣呑な感触。



人差し指は徐々に下がり…

あたしの胸の位置で止まる。




「……君は此処に――

何を入れてるの?」



そんなことを訊いてきたんだ。
< 99 / 974 >

この作品をシェア

pagetop