くるきら万華鏡


 有坂くんは? 有坂くんは、怒ってない?


 そう聞きたいのは、私の方なのに…


 言葉が出てこない。


「昨日は、助けてくれてありがとう。」


 いつもの無邪気な笑顔を見せ、有坂くんはもう一度、今度はちゃんと私を見てお礼を言った。


「助けてないし。私、逃げたし。」


 申し訳なくて、再び視線を逸らし、引き出しの先端へと回り、閉めようと一生懸命押した。


「でも、助かった。」


 有坂くんもその場で左手を添えて、一緒に押してくれながら、そう言ってまた笑った。


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