=寝ても覚めても=【完】

今思えばたいした設備があるわけでもない診療所だったが、不安げな患者に対して笑顔を絶やさぬ白衣の祖父はやたらと恰好良かった。


自分も祖父のような医者になろうと心に決めた。


そのために「商人なんて継ぐかー!俺はいつか爺さんような診療所で働くのだ!!」と啖呵(たんか)を切って親には勘当され、好きでもない勉強にのめり込み、恋愛なんぞに心揺れている暇などなかった。


自分が初心(うぶ)なのは自覚している。

だからと言って、なぜにオッサン相手にときめかなくてはならないのだ。




『大袈裟だな・・・泣かないでも?』


困ったような優しい慰めの声に、ようやく口が開いた。

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