かさの向こうに縁あり
それでも力を集中させて、私は静かに微笑んで、こくりと頷く。


私の意思ではないにしろ、病床に付きっきりでいてくれているんだ。

最期まで傍にいてくれるということは、この“私”にとって、とても幸せなはずだ。



『そう……それならいいんだ』



ほっと安心したのだろうか、彼もつられて微笑んだ。


この表情を見られてよかった、とでも言うように、私の目頭が熱くなる。


お嫁にもらいたい、とつい昨日言っていた彼が、今日は別れ際の問いをした。


人間、いつ何が起こるかなんて、分からないものだ。

こういう悲しい別れも、いつかは訪れる。


でも“私”は、その別れに満足していて。

今にも咳が出そうなのを無理矢理抑えて、私はついに口を小さく開いた。



『ありが、とう……』



そう言って、私は涙を流した。


頭では生きたいと思っていても、身体的にはもう生きることはできないと悟った。

けれど「ありがとう」と言ったのは、今まで一緒にいて楽しかったし、最期の最期まで看取ってもらえるし、その感謝の気持ちは伝えなきゃ、と思ったからなんだろう。


もうこれがきっと最期だ。


そう感じるとほぼ同時に、目がゆっくりと閉じられ、暗闇を漂う気分になった。


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