かさの向こうに縁あり
布団の近くに座ると、笑顔で私を見つめた。



「私は南渕 苑[ミナブチ エン]。夫は死んで、今は一人でこの家に住んでるの」



未亡人ってことか、とすぐに思い至る。


私より10歳以上も年上なように見える。


そうだとしても、どうしてそんなに早く旦那さんが亡くなってしまったんだろう?


でもそんな深いところまで聞く権利は、昨日会ったばかりの私にはない。

だから聞かなかった。



「貴女の名は?」



そう問われると、咄嗟に近くに置いてあったバッグから筆や紙などを取り出す。

今まで書いた部分は手で切って折り畳み、バッグの隙間に押し込んだ。


急いで硯に墨を垂らし、墨を筆につけ、紙の上に筆を滑らせた。



『村瀬 妃依と申します』



ささっと、平助に自己紹介した時と同じような書体で書いた。

女性が見やすいように向きを変えると、紙を首を傾げながら覗き込んでいる。



「村瀬……?」



あぁ、そうだった、と思って、『ひより』と漢字の右横に書き足した。



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