かさの向こうに縁あり
門をくぐり、二人で並んで参道を進む。

人々が賑やかに歩いている中、私達は何も喋らずに進み続けた。



それから暫くして、左手に社殿が見えた。


その時、偶然見た苑さんの顔から笑みが消えていることに気づく。

すぐに胸元から、家を出る時に苑さんにもらった懐紙と矢立を取り出し、さっと書いた。



『どうかしましたか』



彼女の目の前で手を振り、懐紙を見せる。

はっとしたように、苑さんは私を見た。



「あ……ごめんなさいね」



そう言って、苑さんは苦笑した。


私が見ていた限りでは、彼女はずっと笑っていた。

旦那さんを亡くしたことなど、なかったかのように。


でも、違った。

いつ亡くなったかは知らないけれど、きっと心の底では悲しんでいるに違いない。



「前は旦那様とよく来てたなぁって……」



やっぱり、と私はその言葉を聞いて思った。

誰でも、旦那を亡くして悲しくないはずがない。


続けて、苑さんは躊躇いながらも口を開いた。



「実はね、私の旦那様……」



ゆっくりと紡ぐその先に、彼女は予想外な言葉を口にした。



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