かさの向こうに縁あり
『あのまま居たら殺されると思って』



躊躇うことなく書いたその言葉を、顔の前に左腕を伸ばして平助に見せつける。


私の表情、絶対に怖いよ、なんて思いつつ。

彼の表情、いや顔も見たくない、とも思いつつ。


そんな風に余裕のような隙を見せていたら、突然左手首を勢い良く掴まれた。

あまりに突然な痛みに、思わず顔を歪める。


懐紙で見えなかった平助の顔が、僅かに見えた。


と思いきや、すぐに彼は私に背を向け、強く掴まれた手首を引っ張られる。

痛い、とも言えないまま。



「とりあえず屯所に戻ろう」



そう言うと、こちらをちらりとも見ずに歩き出した。



力が強すぎて平助の手を振りほどけない。

それに今更反抗しても、どのみち私は屯所に連れていかれるんだろう。


だから私は抵抗することを諦め、屯所に連れていかれる道を選んだ。

昨夜の努力が全部水の泡になる……



……そういえば苑さんはどうしたのかな、と思いながら、平助の背中だけを見てひたすら歩いた。



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