君はガラスの靴を置いていく





『……………あ、ありがとう』


絆創膏も貼ってあげて、糸井千花は恥ずかしそうにお礼を言った。


俺はその後先生の回る椅子に座り、おもむろに問いかけてみた。



『ねぇ、千花ちゃんって彼氏居るの?』


居ないと分かっていたけど、わざと聞いた。やっぱり出だしはこの質問だろ。



『居ないよ。……今まで居た事ない、です』


時々、敬語になるのが少し可愛いと思った。それに正直な所も好感が持てる。


俺が一番嫌いなのは“今は居ない”と強調して言う女。その小さなプライドが妙に鼻につく。



『千花ちゃん可愛いのに勿体ないね』


これはお決まりの言葉。

少し好意を匂わせて自分の好感も上げる。



『か、可愛くない……です。そんな事言われた事ないし』


『でも千花ちゃん、男子に人気あるんだよ。みんな可愛いって言ってる』



そんな事言われ慣れていない糸井千花は益々、顔が赤い。その反応を見て楽しんでる自分がいる。


俺ってやっぱり悪い男なのかもしれない。


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