an alley cat
「たーだいまぁ」



「冬真!?どこ行ってたの!?鍵は開いてるし!洗濯物畳んでないし!」




玄関に入るなり怒鳴り声が聞こえた。


「ちょっと冬真!?」


これは冬真くんのお母さん。


写真でしか見たことが無いけれど、綺麗な人。




―だけど怖い。




「あーごめんごめん、ちょっと龍斗に呼び出し食らったんだよ」

「ごめんごめんじゃないでしょ、全く・・・ん?」


冬真くんのお母さんの目が、私に向いた。



「・・・ね、こ?」

「母さん、この猫さ、」
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


すごい叫び声。

耳がおかしくなるかもしれない。


「母さん!ちょ、俺の話聞いてくんない!?」

「な、なななななんでっ!?何で家の中に猫がいるの!?」


―「な」って何回言いましたか、お母さん。


「ちょ、落ち着けって!」

「で、でもっ!」



「この猫飼いたいんだけど」

「だ、だだ、駄目に決まってるでしょう!?」

「何でだよ!?」

「何でって冬真も知ってるでしょ!?母さんがどれくらいの猫嫌いかって!」

「知ってるけど!」

「じゃあ、さっさと家の中から出しなさい!」

「勝手に決めんなよ!」

「あんたねぇ!」



―いい争いが、始まっちゃった。


私はどうしたらいい?




迷った挙句、窓の隙間から外へ飛び出した。


「クロ!」


冬真くんが私を追いかけてきた。


「・・・ハァッ、母さんがあんなんでごめんな・・・」


冬真くんは本当に悲しそうな顔で、私も悲しくなった。


「・・・ミャー」

「ありがとう」、私は大丈夫だよ。



「ごめんな、龍斗ん家行く?」


「ニャー」

「行かない」私はそう言って、冬真くんを背に歩き出す。



「んじゃーまたなぁ!」


背中に冬真くんの声を聞きながら、私はアスファルトの道を歩いた。






こうして、私の野良猫生活が始まった。


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