みにくい獣の子
踏み出す


電気を消すと、月の光がカーテンの隙間から細く零れていた。












みにくい獣の子
第11話











もう一度寝巻着に着替えた私は、軽い疲労感を覚えながら床についた。明日の朝、とりあえず田中さん…いや、リクが帰ってきたらあの狼をどうにかしてもらおう。

本当に、変な日だった。―――


目を瞑って何分たったか分からない。眠りの浅い私の耳に届いた音は、玄関の方向からだった

カシ、カシカシ

何かを引っ掻いて滑っているような…、きっとあの狼の仕業だよね

ガチッ

カシ、カシ




ここ借家だからぁああ!傷とか、勘弁してぇえ!


寝ぼけた頭はハッキリと覚醒した。くそ、なんてことだ。

ベッドから起き、走って玄関にまで行く。


「ちょ、」


狼は『あ やべ』とでも言う勢いで私の顔を見た。不自由であろう小さな手で、ドアノブを掴もうと…いや、開けようとしているように見えた

「……」

私が寝た頃に、逃げようとするなんて。なんてヤツ。

とりあえず、暗い玄関を照らす電気を点けた。ドアを確認するが、傷は付いていない。助かった…視線を上にやれば、ドアノブの上の鍵に目がいった


「え…鍵も開けたの?」


かけた筈の鍵は空いていた。珍妙ではあるが、この動物は頭が良いと認めざるを得なかった。


「おまえ…」


わふ

今度は私の頬を舐めた。

「んっ…誤魔化されないよ、そんなんで」

鍵を再度かけ、チェーンもついでにかけた。

こいつを捕まえておく理由はないけれど、今逃がして祐くんに逆恨みされても困る。明日の朝まではここに居て欲しい。


「外に行きたいみたいだけど…ごめんね?」


言うと、狼は澄んだ瞳で私をじーっと見つめた。
そんな目で見られてもドアは開けないぞ! と思ったが、彼は静かに鼻をならしただけだった。

呆気にとられベッドに戻ろうと歩き始めた私の後ろを、狼はてくてくと四つ足で着いてきた。


「え、何、え?」

狼は立ち止まった私の横を通りすぎ、今度はソファの下に伏せて丸くなった。



なんなんだコイツ。もう、好きにしてくれ



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