ホタル
「裕太っ!!」
あたしは素早く煙草を携帯灰皿に押し込み、急いで裕太の手を取った。
そのままの勢いで立ち上がり、あの微塵も生活感のないシステムキッチンに駆け込む。
思い切り水道の蛇口を開け、裕太の掌を水にかざした。
ザーッと水の流れる乱暴な音が、広いリビングに響き渡る。
「.....大丈夫だよ、これくらい」
裕太の声で、あたしはようやく蛇口を止めた。随分長い間水を出していたみたいだ。
微かに手が震える。
「ごめん、ほんと......赤くなっちゃった......」
綺麗なタオルで裕太の掌を拭うと、真ん中に小さな赤い跡が浮かび上がった。
キュッと眉間にしわがよるのがわかる。
......何やってんの、あたし。
最近、自分でもほんとにヤバいと思う。
『どうかしてる』って何度も自分に言い聞かせるけど、効果なんて全くない。
そんな自分が一番『どうかしてる』ことだって、もう十分すぎるくらいにわかっていた。
ふいに眉間にひんやりとした感触をおぼえた。
ふっと視線をあげると、裕太の指があたしの眉間に触れていた。
「これくらい全然平気だから。そんな顔すんな」