ホタル


「っていうかさ。朱音、煙草吸うんだ」

笑い終えた裕太が言った。

「......『水清ければ魚棲まず』って言うでしょ」
「どういう意味?」
「あんまり清廉すぎても、人に慕われないよって意味。完璧すぎたら逆に近よりにくいでしょ?」


「なるほどね」と裕太は呟き、あたしはガタンと席を立った。

「ほら、タオル貸して。洗濯機持ってくから」

あたしは裕太からタオルを受け取り、「早く着替えちゃいなね」と言う。

それと同時に、玄関から物音が聞こえた。


「あ、まさみさんが帰ってきたかな?」


丁度良いタイミングだ。パタパタと廊下を歩く足音はまさみさんそのもので、あたしはほっと胸を撫で下ろしてキッチンのドアを開ける。


「あらぁお嬢様!お帰りでしたかね。すみませんねぇ、夕飯の買い物に行ってまして......」

まさみさんはどこかの訛りが入っている口調でそう言いながら、丸々とした体を揺する独特の歩き方でキッチンへと向かった。

あたしは入れ違いにドアを出ながら、「さっき帰ったの。着替えてくるね」と言う。

なるべく裕太を見ない様にしながら、後ろ手でドアを閉めた。

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