ホタル
階段を駆け上がり、突き当たりの自分の部屋へと走って向かう。
バタンとドアを閉めると、そのまま背をもたれて軽く深呼吸した。
手にしたタオルをぎゅっと抱きしめる。
「あたし、おかしいよ」
やや自嘲的に呟き、その場に崩れる様に座り込んだ。
抱きしめたタオルからは、微かに裕太の香りがした。
それだけで胸がくっと締め付けられる。
......いつからだろう。
裕太を弟として見れなくなったのは。
......いつからだろう。
姉弟だと実感する度に、胸が苦しくなるようになったのは。
......いつからだろう。
裕太を好きだと、思う様になったのは。
これがあたしの切り札。
確実な裏切りと、失望を与える切り札。
でも決して、口にすることは許されない。
隠し続けなければいけない。
こんな汚れた忌まわしい気持ちは、絶対にばれてはいけない。
誰のためなんかじゃない。
全部あたしのため。
あたしが、裕太に嫌われたくないから。
『お姉ちゃん』でいないと、裕太の幸せな日常は崩れてしまう。
裕太に、嫌われてしまう。