ホタル
「頼み?」
あたしがそう言うと裕太はコクンと頷き、その拍子に髪から雫石が落ちた。
「あ、もう......ちゃんと乾かさないと風邪ひくよ?」
あたしはさっき置いたばかりのタオルに手をのばし、裕太の頭にそれを被せた。
くしゃくしゃっと髪を拭く。裕太の柔らかい髪の感触がタオル越しに伝わった。
裕太は少し俯き、あたしが頭を拭きやすい角度で止める。
まだ少しだけあたしより低い身長。
このまま抱き締めたい衝動に駆られる。
仲の良い姉弟だったら、それはおかしくない行動なのかな。
あたしの汚れたこの想いがあるから、触れる事ですら赦されない事だと感じるのかな。
「ありがと」
しばらくして、あたしは裕太にタオルを引き継いだ。
自分でくしゃっと軽く拭いた後、そのタオルを首にかける。
「で、頼みって?」
あたしは机に向かいながら尋ねた。
「うん」と小さく呟いた後、裕太はあたしの背中に頼みを投げ掛ける。
「煙草、教えてよ」
予想もしてなかった頼みと、今まさにあたしが煙草を吸おうと考えていた偶然に驚き、思い切り振り向く。
「え......煙草?」
「そう、煙草」