ホタル
裕太はそう言うと、スウェットのポッケから四角い箱を取り出した。
赤い煙草の箱と、百円ライター。
あたしは思わず目を丸くし、なるべく小さな声で叫んだ。
「ちょ......っ!それどうしたのよ」
「親父の書斎からパクってきた。ライターは百均で買えたけど、煙草はコンビニじゃ売ってくれないだろうし」
「パクってきたって......」
「大丈夫、バレないよ。他にも沢山煙草あったから」
あたしと違い冷静に言葉を発する裕太を見ながら、あたしは明らかに困惑した表情を浮かべる。
確かに、お父さんはヘビースモーカーだ。
いつも箱買いしては書斎に溜め込んでいるので、ひとつくらい無くなっても全く気付かないだろう。
あたしが困惑したのはそんなことじゃない。
余りにも冷静で真剣な裕太に対してだった。
夕方、裕太の前で吸ったのは間違いだったかな......。
まさか自分も吸いたいと言い出すなんて、しかもあたしに教えて欲しいと頼みに来るなんて思いもしなかった。
あたしは裕太の掌に納まっている赤い箱に目をやりながら言った。
「でも......なんでいきなり?」
少し考える仕草を見せたが、はっきりと裕太は答えた。
「大人になりたいから」