ホタル
『大人になりたいから』
裕太が大人になりたがっていることは知っていた。
でもきちんと裕太の口から聞いたのは初めてだった。
真剣な裕太の伏せがちの目の上で、長いまつげが動く。
「何で?何で大人になりたいの?」
「さぁ」
「さぁって......」
裕太の目線の先にあるライターがくるくると彼の掌でもてあそばれる。
困惑してるあたしに、裕太はちらりと視線を上げて言った。
「朱音言ったじゃん。『水清ければ魚棲まず』って」
答えになってない裕太の答えにあたしは軽く肩を落としたが、裕太の笑顔に誰よりも弱いのはあたしだってことくらいわかってた。
諦めのため息か決意のため息かわからなかったが、とりあえずふぅっと息を吐き言う。
「わかった。いいよ」