ホタル



……………

「何で電気消すの?」

豆電球でほんのり照らされた薄オレンジ色の部屋の中で、裕太はくるりと視線を巡らせて呟いた。

「電気消してたらもう寝てるって思うでしょ。まさみさんも絶対入ってこないし、夜あたしが煙草吸う時は必ず電気消すの」

夜電気をつけてると、たまにまさみさんがお茶を持ってきてくれるのだ。
裕太は床に腰かけ、あたしはガタガタと灰皿を出したりカーテンを閉めたりする。

カーテンの隙間から向かい側の建物を見た。

中庭を挟んだ向かい側にはあたし達が今いる邸宅より少し小さい建物がある。

二階の廊下で繋がれたそれは、まさみさんの様なお手伝いさん用の部屋や両親の寝室、書斎のためのものだ。
一階がお手伝いさん用のフロアで、二階は全て両親のためのものになる。

あたしは電気のついていない二階を見つめ、シャッとカーテンを閉めた。

「だから裕太も夜吸う時は電気消しなね。部屋、電気消してきた?」
「うん、大丈夫」

あたしは裕太の前に座り、真ん中にあの灰皿と自分のシガレットケースを置いた。
それを見つめる裕太に「あたしお父さんの煙草、吸わないからさ」と言い、きちんと座り直す。

「じゃあ吸ってみる?」

< 22 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop