ホタル
裕太が置いていたお父さんの煙草に手を伸ばしたが、それより先に裕太の手があたしのシガレットケースに届いた。
びっくりして視線をあげたが、裕太は相変わらず冷静な顔で箱の裏を叩き煙草を取り出す。その仕草はどこかの誰かの見よう見まねか。
「俺、こっちがいい」
「え?」
「朱音、これ吸ってんだろ?こっちがいい」
裕太のその一言にあたしがどれだけ胸を高鳴らせたかは、想像できると思う。
「どういう意味?」と聞きたかったが、その前に裕太が「初心者向けなんじゃない?」と言うから、ああそうかと舞い上がった自分を恨んだ。
大体あたしの思考回路はおかしいんだ。
裕太の言葉をあたしの思考に当てはめちゃ駄目だ。
裕太にとってあたしは、『お姉ちゃん』なんだから。
「初心者向けかどうかはわかんないけど、あたしこれしか吸ったことないし」
「朱音も誰かに教わった?」
煙草をくわえ、百円ライターに手を伸ばす裕太。
「まぁ......教わったわけじゃないけど、見よう見まねで」
あたしは自分のジッポを差し出し「こっちのがいいよ」と一言。