ホタル


裕太はあたしが何を教えるまでもなく、ジッポを操り煙草の先に火をかざした。
カチッという音と同時に小さな炎が裕太の口元を照らす。


あたしは、影を落とす裕太のまつげと鼻筋を見つめた。


やがてジッポの蓋が閉まり、辺りに暗闇が戻ってくる。
火をつける前よりもっと暗くなった気がした。

ふぅっと裕太の口から煙が筋になって吐き出される。親指と人差し指で煙草をつまみ、口から離して呟いた。


「彼氏か」
「彼氏じゃないよ」
「年上?」
「......当時のあたしよりは」

あたしは諦めた様に呟き、灰皿を差し出した。灰がポトリと落ちる。

「どういう意味?」
「先輩だったから。その時は、高一だった」
「今の朱音と同い年ってことね」

納得したように呟く裕太に、「でも昔のことだから。もう別れたし」と言い訳の様な言葉を返した。
そんな自分が滑稽だ。



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