ホタル

薄いパーカーを羽織ってはいたけど、部屋着のままの鈴川君がそこにはいた。
不思議そうな表情であたし達を見ている。

「ど…したの?」

さっきから貼り付いたままの声でそう聞くと、鈴川君は裕太を気にしながらも近付いてきた。

「いや…ちょっと遅かったからさ。飲み物買いに行くついでに迎えに来たんだけど…」

鈴川君の視線が確実にあたしから裕太に移ったのを見て、あたしは思わず説明した。

「あ…弟、で」
「弟?」
「うん、えっと…」

これ以上何を言えばいいのだろう。

戸惑っているあたしの横で、裕太は軽くお辞儀をした。

その表情は、さっきまでとはうって変わって落ち着いた笑顔で。

「初めまして」
「あ…どうも、」

鈴川君も同じ様に急いでお辞儀をする。違和感だらけの空間。

「姉とはさっき、たまたま会ったんです。俺も少し用事があってこっちに来てて」
「あ…そうなんだ」
「でも、もう失礼しますから」

それじゃ、軽く頭を下げて、裕太は行こうとした。

思わず、衝動。


「裕太!」


今日、一番はっきり裕太の名前を呼んだ。

< 262 / 326 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop