ホタル
薄いパーカーを羽織ってはいたけど、部屋着のままの鈴川君がそこにはいた。
不思議そうな表情であたし達を見ている。
「ど…したの?」
さっきから貼り付いたままの声でそう聞くと、鈴川君は裕太を気にしながらも近付いてきた。
「いや…ちょっと遅かったからさ。飲み物買いに行くついでに迎えに来たんだけど…」
鈴川君の視線が確実にあたしから裕太に移ったのを見て、あたしは思わず説明した。
「あ…弟、で」
「弟?」
「うん、えっと…」
これ以上何を言えばいいのだろう。
戸惑っているあたしの横で、裕太は軽くお辞儀をした。
その表情は、さっきまでとはうって変わって落ち着いた笑顔で。
「初めまして」
「あ…どうも、」
鈴川君も同じ様に急いでお辞儀をする。違和感だらけの空間。
「姉とはさっき、たまたま会ったんです。俺も少し用事があってこっちに来てて」
「あ…そうなんだ」
「でも、もう失礼しますから」
それじゃ、軽く頭を下げて、裕太は行こうとした。
思わず、衝動。
「裕太!」
今日、一番はっきり裕太の名前を呼んだ。