ホタル
「ん?」
「火、いるの?」
「そりゃ、いるでしょ」
意味のわからない裕太の問いを不思議に思いながら答えたが、ふいに裕太が近付いてきたのであたしの体は一時停止した。
裕太はくわえた煙草をあたしのそれに近付け、視線を煙草の先にやりながらそっと二本を合わせた。
チリッという音が聞こえ、裕太の火があたしの煙草に移っていく。
ふいに固まっている場合じゃないことに気付き、あたしは思い切り息を吸った。
その勢いであたしの煙草に完全に火が灯る。
それを見届けた裕太は、満足そうにあたしから離れて煙を吐いた。
あたしも緊張した指先で煙草をはさみ、吸い込んだ煙を吐き出す。
突然の事で思考の回らないあたしを見ながら、裕太は余裕の笑みで言った。
「やってみたかったんだ、一回。煙草の火移すやつ」
裕太が二、三度煙を吐き出す間に、あたしはようやく感覚が戻ってくる。
同時に心臓のスピードがあがって、頬が紅潮するのがわかった。
暗い部屋でよかった。赤い顔、ばれなくてすむ。
でも静かな部屋はまずい。心臓の音、聞こえちゃう。