ホタル


「裕太、灰皿ないでしょ?」
「え、うん」
「あげるよ、それ。あたし滅多に部屋で吸わないから灰皿いらないし、他にも持ってるし」

心臓の音が聞こえないように、なるべく大きな声で言う。

「携帯灰皿もいるよね。あ、でもなるべく外で吸わないようにね。あたしが言うのもあれなんだけど、いけないことなんだから......」
「朱音」

立ち上がり予備の携帯灰皿を探していたあたしの背中に、裕太の声が響いた。
トクンと心臓が跳ねる。


「ありがと」








......ねぇ裕太。裕太は知らないでしょ。

あなたのその一言が、どれだけ嬉しいか。

泣きたくなるほど、切ないか。


あたしは振り向いて、裕太に携帯灰皿を差し出した。
それを受けとる裕太を見下ろし、小さく微笑む。


「吸いすぎちゃダメだよ」




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