ホタル



……………

夕飯はいつも二人で作った。
今日は裕太のリクエストで和食。
キッチンに、鯖の味噌煮の香りが満ちる。

「いい匂い」

裕太が満足そうに呟いた。
あたしも鍋を覗き込み、その懐かしい匂いを吸い込む。

「うまくできたね」
「だな」

あたし達は微笑みあって、それを少し深いお椀についだ。

鯖の味噌煮は裕太の好物だった。

だから昔から、家ではよく出されていた。

そのことを覚えていて敢えて口に出さないのは、多分あたしだけじゃない。

暗黙の了解だった。
今しか見ない。それが、逃げるあたし達に課されるルール。


予想以上にご飯は美味しくて、付け合わせのおひたしにさえ満足を覚えた。

二人分のご飯を全部平らげて、肩を並べて食器を洗う。

BGMは、人気の歌番組。
裕太よりも幾分か若いアイドルグループが、踊りながら新曲を歌っていた。

最後の一枚にあたしがスポンジを滑らし、それを裕太がさっと流す。
キュッと高い音と同時に、水の流れが止まった。

「よしっ、完了」

流しの下にかけてあるタオルで順に手を拭き、あたしは裕太にいつもの様に言った。

「お風呂入る?沸かそうか」


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