ホタル


「…裕太は、」


あたしの声に、一気に視線が集まるのがわかる。

倒れた椅子を見つめたまま、あたしは声を絞り出す。

「裕太はずっと…傷付いてきたんだよ?二人とも、裕太の泣き方知ってる?あたし達が…どうやって泣いてきたか知ってる?」

声を上げずに泣いてきた。
その裕太をあたしは、ずっと抱きしめてきた。

「いけないことだって、わかってるよ。あたし達が一番わかってる。…裕太の言う通りだよ。どうして止めてくれなかったのよ。どうしてもっとちゃんと、あたし達のこと見ててくれなかったのよ!」




…パタッと、雫石の音がした。

涙がテーブルクロスに落ちる音だった。

でもその涙はあたしのものじゃなくて。



「…お母さん」




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