ホタル



お母さんは、泣いてた。

肩を震わせて、顔を歪ませて。


お母さんの涙を、あたしは初めて見た。

「…朱音」

お母さんがあたしの肩を力なくつかむ。
お母さんの手、こんなに小さかった?

「駄目なのよ、朱音。あなた達は…姉弟なのよ?私がお腹を痛めて生んだ…二人とも、私の子どもなの。…いけないことなのよ」
「っ、そんなの…っ」
「やめなさい」

お母さんの手が、背中に回された。
あたしより小さな背で、あたしを抱きしめる。

体は、震えていた。

「もうやめなさい、朱音」








…ずっと、止めて欲しかった。

他の誰でもない。
あたし達のお母さんに、止めて欲しかった。


わかって欲しかった。


お母さんの涙が、肩に染みる。

あたしも唇を噛み締めて、泣いた。


「…もっと」


でも。



「もっと早く、止めて欲しかった…」






もう、遅い。



あたし達は、こんなところまで来てしまったの。







…堕ちるとこまで、堕ちてしまったの。














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