ホタル



……………

眠れるわけないのに、ただベッドに横たわっていた。
時間だけが、ただ無情にも過ぎていく。

何を考えるわけでもない。
考えるという行為を、体全体が否定している。


考える先にある未来を、もう頭のどこかでわかっているからかもしれない。


小さな虫の音が聞こえた。

頭を冷やそうと、ベッドから起き上がった。



…広い家は、しんと静まり返っていた。

暗い夜中。
家族全員が揃っていても、この暗さは変わらない。

あたしが歩く度、廊下が小さく軋んだ。


リビングに入った瞬間、足が止まった。

でもドアをもう開けてしまっていたから、今更引き返すことはできない。

昔あたしが煙草を吸ったソファーに、お父さんが座っていた。


小さくお父さんが視線を動かした。
お父さんの目の端と、あたしの視線がかち合う。

あたしは咄嗟に、視線を流した。

テーブルには、お父さんの飲みかけのワインがあった。


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