ホタル


裕太の目の色が変わった。
握りしめる手に力を入れる。


「誰に出会えなくても、裕太にだけは出会いたかったから」


…あたしは、両親を両親と思えなかった。

自分の父親、母親だと実感する要素が、少なすぎた。

許すことはできない。
それでも、恨むことなんてできなかった。


二人がいなければ、あたし達は出会えなかったから。


静かに虫の音が流れる。

裕太はゆっくりと俯いた。

本当は、今すぐ抱き締めたい。

手を取って、ここから駆け出したい。


…でも。


「…裕太、」


裕太が顔を上げた。
あたしは一番優しい表情で、彼を見つめる。


「幸せな話、しよっか」


いつか裕太が言ってくれた。

今度はちゃんと、二人の未来を。

未来の、幸せを。



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