ホタル


英里に助けを求めようとしたが、その前に再び深見さんの口が開いた。

「朱音ちゃん、彼氏は?」
「え?いや、今はいないです」
「今はって事は、前はいたんだ」
「ええ、まぁ」

思い出したくもないラブホ前。記憶を消すようにカルーアミルクを飲んだ。

「兄弟は?」
「え?」
「いる?長女でしょ」

自信ありげに残酷な質問を投げ掛けてくる深見さん。よりによって何でこの話題なの。


「います…...けど」
「下?」
「…...はい」
「俺も長男。妹と弟がいるんだよね」

ジントニックを飲みながら「長男長女だと大抵しっかりしてるよね」なんて言う深見さんの言葉は、あたしの耳には届いてなかった。




…...あたし、何してるんだろう。
裕太を忘れたくて、忘れさせてくれる人を求めてここまで来たのに。

裕太は弟だって、改めて思い知らされただけだった。

嫌という程、思い知ってきたのに。



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