ホタル
なんだか泣きそうだ。喉の奥が熱くなる。やばい。
「あーかねっ!ちょっと付き合ってっ」
ふいに頭上から明るい声がして振り向いた。そこには笑顔の英里がいた。
「御手洗い行こっ!すみません深見さん、朱音借りてきますね」
あたしの腕を引っ張り上げながらそう言うと、英里はそのまま歩き始めた。
あたしも深見さんに少し会釈をして英里に続く。
ローズでデコレーションされた可愛らしいトイレのドアを閉めると、英里はふうっと息をついて「大丈夫?」と呟いた。
「え?」
「何か助けて欲しそうな顔してた。深見さん苦手なんでしょ?」
申し訳なさそうな表情で英里は続けた。
「なんかごめんね?あたし無理に連れてきちゃったし。すぐに行けたらよかったんだけど」
「いいよいいよ。だって英里、金井さんといい感じだったじゃん?何気ぃ使ってんのよ」
あははっと笑いながらなるべく明るい調子でそう言ったが、空回ってることはあたしが一番よくわかってる。
英里は笑わなかった。いつになく真剣な表情で言った。
「朱音さ…...もしかして、好きな人いるの?」