ホタル


「朱音ちゃん家ってこの辺?」
「まぁ、近いですけど......」
「時間気になるならさ、送ろうか?」
「え?」
「ていうか、2人で抜けない?」

周りに聞こえない程度の声で囁いた。普通の声で言っても周りは聞いてないだろうけど。

「いいんですか?そういう事......」
「大丈夫だよ。皆好き放題やってるし?正直俺、今朱音ちゃんと2人で話したいと思ってるしね」

そう言ってニコッと笑う深見さんは、やっぱり自分に自信があるタイプだ。そしてあたしはその真逆。こんな自分に自信もくそも何にもない。

「ね?行こうよ」
「いや、でも......」

深見さんはもう一段階あたしに近寄ってきた。手があたしの肩に伸びるのがわかる。避けようにもここは端の席だ。ヤバい、どうしよう。



ふいに体が浮いた。


いや、そんな非現実的なことがおこったわけじゃない。いきなり後ろから腕を捕まれて立たされたので、文字通り『浮いた』気分になったのだ。

わけのわからないまま首を90度回すと、そこには予想もしてなかった人がいた。心臓が思い切り跳ねる。


「裕…太?」



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