ホタル
あたしの二の腕を掴んだままの裕太。そのままあたしを見つめていたが、ふいに「帰ろ」と呟いてそのまま引っ張る。
もたつきながらもあたしは引っ張られるがままについていく。思考回路は渋滞どころか遮断されてしまった。
あの甲高い業務連絡と後ろのざわめきが背中を追いかける。
すれ違い際に裕太が深見さんに冷たい一瞥を送ったのは、あたしの見間違いだったかもしれない。
あんなに静かな冷たい目をする裕太を、あたしは今までに一度だって見たことがなかったから。
あたしの視線より高い位置にある裕太の頭。伸びた髪の毛が、入り口を開けた拍子にサラッと揺れた。