ホタル
……………
春だと言っても夜は随分冷え込んでいた。風はないけど空気が冷たい。右手を中心に火照った体には心地いいくらいの気温だ。
斜め前を歩く裕太。左手には、あたしの右手がおさまっている。
手を繋いで歩いたのなんて、何年ぶりだろう。
「ちょ......裕太、早いよ」
あたしの一言が、足早に歩く裕太を止めた。あたしも合わせて止まる。
歩いている時は不自然じゃなかった繋いだ手も、立ち止まった今は妙に浮いてしまっていて、それを感じた2人は手を離した。
掌が夜の空気に晒され、すっと静かに冷えていく。
「何で......」
聞きたい事はたくさんあった。だからこそ何から聞けばいいのか解らずに疑問符だけを呟く。裕太はこの疑問符に何と答えるだろうか。
「あんまり、遅いから。電話も急に切れてちょっと心配だったし」
裕太はあたしの『何で』を、『何で来たの?』と捉えたみたいだった。勿論それも聞きたかった事だ。
「場所、よくわかったね」
「ああ、あのアナウンスでわかった」